被告が逃亡初日に行ったこと

逃げに逃げた先で行ったのは、自身の整形手術

追求からの逃走劇、放置自転車と電車を巧みに使い分けて人混みの中をすり抜けるように市橋被告は千葉県にあった自宅から東京千代田区秋葉原まで移動した。これだけの行動力を発揮したため、警察も対応しきれずに取り逃がしてしまったのだから、しょうがないといえるかもしれない。また当時都内にいた人々もタイムリーに自分の側で逃亡犯がいるなどと考えるに及ばないだろう。大胆すぎる市橋被告だったが、その逃避行の最中でも彼は至って冷静で自分がどんな状況にあるのか客観的に見ていた。

このまま逃げ続けたとしてもいつか捕まる可能性が高くなる、警察の捜査能力がそれだけ高いことを理解していたのです。警察犬の導入で臭いを辿ったり、果ては目撃情報などが集まれば集まるほど、自分の逃走ルートを探り当ててきて、いつかは捕まってしまうかもしれないと理論的に把握していた。

そう考えれば彼がこの後に行った、逃亡初日における行動にも納得できる。それこそまさに彼が絶対に捕まらないとする執念めいたものを感じさせる原因だ。彼は何をしたのか、それは自身による『顔面の整形手術』です。

逃げ切るために

整形手術を知識の持たない人間が行うなど前代未聞だ、何せ無免許で行えばどんなことになるかは今となってはとても知られている。そうしたリスクも込みで、市橋被告は迷うことなく自身の顔を変えるために自分で自分の顔に刃を突き立てたのだ。

人相を変えれば逃亡もしやすくなる、それを逃げている最中に思いつく辺りもそうだが自身で顔を変えるなどと誰が考えつくだろうか。プロですら誤りが起こりやすい手術を自分自身で行うというだけで、正気の沙汰とは思えない。けれどこの事を踏まえると自分がこれから何をすべきなのかを冷静に考えていたのではないか、その考察にも繋がっていくはずだ。

肝心の整形手術を行った場所は奇しくも東京大学医学部附属病院の障害者用トイレで行ったというのです。病院側がこのことに気づいた時には愕然としたはず、まさか自分たちの病院で犯罪者がそのような狂気に及んでいたというだけでも背筋が凍りつくようだ。無事自分の顔を改変した後、市橋被告の人相は大分変化した。どのような施術を行ったのかというと、

鼻:鼻翼を左右から縫い縮める

下唇:ハサミで切り落とす

ホクロ:カッターナイフで削ぎ落とす

このようになっている。いくら逃げるためとはいえこれがまともに出来るとは到底考えられない。切羽詰まっていたのかもしれないが、彼自身が何処かで事態を恐ろしく凍りつくように冷淡なほど分析していた可能性が見て取れる。

劇中においてリアルに再現

そんな市橋被告が逃亡を開始した初日に行った整形手術、これは映画でも忠実すぎるくらいに再現されていた。実際に下唇を切り落とすためにハサミを当てるディーン・フジオカさんの表情は、冒頭一発目から迫真の演技で観客を魅了する。切った跡の飛び散る血が散らばる様子がその瞬間、被告のしたことだと思うだけで思考が停止するほどの恐ろしさがある。

市橋被告の映画の中である種、一番センセーショナルなシーンと言っていいだろう。

何がそこまで駆り立てられたのか

自身の顔面を整形手術するのに成功した市橋被告は逃亡開始から初期の頃は関東周辺を転々として追手を振り切る生活をしていた。しかしそれでも逃げきれる可能性が拭えず、関東を離れてその後熱海経由で静岡県へと入ると、北上して青森まで行くことを決めます。実はこの時、福岡在住の知人へと近々訪れることをメールで連絡していたため、南方面への逃亡は察知される可能性があったためにわざわざ北へと赴いたのだ。

そうした細かな事を覚えていた時点で、彼が意図的に逃亡を図っていたことが明確に理解できます。そして警察の捜査というものがどのように行われているのか、知識として十二分に理解しているほど、彼の思考能力と状況判断能力、その高さが窺い知れるはずだ。その後は青森へと北上するものの、1週間前後の滞在でその地を後にします。これは青森の経済状況が良くなく、いくら逃亡中だからといえど金銭がなければ生活できないという点から、職探しも行っていたのです。

逃亡資金も兼ねての生活費を稼ぐため、北上したルートをそのまま戻る形で青森から一転して大阪府までその足を伸ばした。しかしそれでも職につくことはなく、大都市にいればいるほど捕まる可能性が高いとして一路南西へと足を進んでいったのです。